ビレッジプレス
1985-2021

 
 
 

発行書籍

坂田隆著「ちはやぶる・さねかづら─想起詞で読み解く枕詞─」

 
ISBN978-4-89492-192-4 C0081
定価1,750円+税
 
“神武天皇がその山の埴土を取り寄ろふ”といえば、日本書紀の伝承を常識とする万葉歌人なら「天香具山」を想起した。「取り寄ろふ」は想起詞である。
従来、万葉集などの枕詞の多くは典拠不明とされていた。本書は、“想起詞の典拠・由来は古事記・日本書紀の伝承や既存歌にある”と提起する。

聖徳太子の歌に「さす竹ノ君」という詞がある。
「さす」には「池ノ堤に さす柳」のように、“樹木が生え育つ”という意味がある。
竹は一本だけで生育することはなく、群生して竹林になる。「さす竹」の実景は“竹林”である。
聖徳太子が尊敬を込めて“竹林の君”と呼ぶのは誰のことか。

<目次>
序章 想起詞・応想詞
 §1 吾が心清・吾が心明かし
 §2 想起詞・応想詞
 §3 上代特殊仮名の表記について
第1章 取り寄ロふ天香具山・なま詠みノ甲斐ノ国 ─伝承系
 §1 吾が心→清・吾が心→明かし
 §2 吾が心→つくし
 §3 取り寄ロふ→天香具山
 §4 なま詠みノ→甲斐ノ国
 §5 撃ち寄する→駿河ノ国
 §6 指進みノ→栗栖
第2章 わたつみノ豊・はしたてノ熊 ─人名系
 §1 わたつみノ→豊
 §2 いさな取り→海
 §3 撃ち上る→さほ
 §4 妻隠る→小さほ
 §5 はしたてノ→熊
第3章 錦紐解きさケて・梓弓音 ─既存歌系
 §1 錦→紐解きさケて
 §2 錦→紐 ノ結びモ 解きさケ
 §3 紐解きさケて→千
 §4 錦紐解きあケて→夕戸知らず
 §5 吾が思ふ→みこ
 §6 梓弓→音
 §7 梓弓→夜ら
 §8 朝狩りノ→君
第4章 吾が夫子が来べき宵なり笹が根ノ蜘蛛
第5章 山たづノ迎へ・さゝがにのくも ─一音改変系
 §1 君が行き日長くなりぬ山たづノ→迎へ
 §2 わがせこがくべきよひ也さゝがにの→くも(古今和歌集)
 §3 「ささがに」が「蜘蛛」の意味に転じる ─応想転化系
 §4 さゝがにのふるまひしるき→夕暮(源氏物語)
第6章 いははしる神なビ ─末尾無用系
 §1 神なビノ→ 打廻ノ崎ノ いはふ ─遠呼系
 §2 いはばしる→淡海・間近き)・遠き
 §3 いはは しる →神なビ
第7章 宮人響む里人モゆメ
第8章 さなかづら・さねかづら ─暗示系
 §1 たつた山→(立つ)
 §2 さなかづら→さ寝ず
 §3 さなかづら→ 絶ヱむト妹を吾が (さね)思はなくに
 §4 さねかづら→(さね)人に知られで来るよしもがな(後撰和歌集)
 §5 さねかづら→(さね)後モ逢はむ
 §6 さなかづらありさりてしモ今ならずトモ→(さね後モ逢はむ)
第9章 さねさし相武
第10章 ちはや人宇治ノ渡りに
 §1 大山守皇子の「ちはや人宇治ノ渡りに」歌
 §2 宇遅能和紀郎子の梓弓檀歌
第11章 ちはやぶる神
 §1 道速ぶる神・ちはやぶる→神
 §2 道速ぶる宇治ノ渡り・ちはやぶる→宇治ノ渡り
 §3 ちはや ぶる→人
 §4 道速ぶる鐘ノ岬
 §5 道速ぶる神ソ憑く
第12章 さす竹ノ君 ─聖徳太子のいう「君」とは誰か
第13章 妹らがり今木ノ嶺 ─助動詞「む」の脱落
第14章 足引キノ山田・百敷キノ大宮人 ─上代特殊仮名に関わる想起詞
 §1 大津皇子の想起詞「あしひキノ山」
 §2 木梨軽太子の想起詞「山田を作り山高み下樋を走せ」
 §3 「足引キノ山田」とは誰のことか
 §4 「足引キ」の「引キ」・「百敷キ」の「敷キ」は四活動詞の貴人動作形
 §5 木梨軽太子歌の「足引キ」は二重系の想起詞
 §6 大津皇子の「足引キ」は三重系の想起詞
 §7 山鳥ノ尾ノ下垂り尾ノ長→(ゆメゆメ)